TOHOスタジオ - 未来を見据えイマーシブ・サラウンドを導入したMAルーム
- MAルーム開設に至る経緯を教えてください。
早川 私たちのTOHOスタジオは撮影ステージも完備していまして、一昨年くらいからストリーミング配信作品の撮影も増えてきました。同じ敷地内で配信作品を制作しているなら、それをポスプロのMAルームを使って作業しなければもったいない、というところから、MAルーム開設の企画が立ち上がりました。
コロナ禍の厳しい情勢下ではありましたが、なんとか予算も獲得でき、一刻でも早くスタジオを開設して売り上げを立てていこうということで、2020年秋から工事を開始しました。
どこにMAルームを設けるかにあたっては、稼働頻度が多くはなかったポストプロダクションセンター1の小試写室を作り変えることになったのです。
- MAルームではイマーシブ・サラウンドに対応したとのことですが、その経緯についても教えてください。
竹島 MAルーム作りにあたって一番初めにターゲットにしていたのは、Netflixさんの作品でした。ちょうどルーム設計の段階でNetflixのアジア技術統括をされているオジー・サザーランドさんが日本にいらしていたので、どういったことに気を付ければ良いかのアドバイスを伺ったんです。その中ではイマーシブ・サラウンド規格であるDolby Atmos対応とすることはマストの要件であると確認できました。
チャンネル数については7.1.2や7.1.4も検討しましたが、この先Dolby Atmosをきちんとやっていこうとすると9.1.4は必要であろうと。9.1.6案もありましたが、小試写室の大きさから9.1.4が最適だろうということになり、Netflixさんサイドからも問題ないという解答があったので、最終的に9.1.4でフィックスしました。
- スピーカーをGenelecとした理由を教えてください。
竹島 スピーカーの選定では、元々“仕込み部屋”として使用されている3.1ch仕様のエディットルームと、5.1ch仕様のデザインルームの合計7部屋でGenelecを使っていたんです。こうした部屋と最終的な仕上げを行うMAルームでスピーカーが変わってしまうのは不安を感じてしまう要素ですので、かなり最初の段階からGenelecを導入することが決まっていましたね。また、TOHOスタジオでは10年ほど使用してきた中で、故障もほとんどなかったという点での信頼性の高さも理由のひとつとなりました。
早川 仕込み部屋については、撮影が終わってからすぐに入る3.1chのエディットルームで確認いただいて、まずはリーズナブルに2〜3ヵ月使っていただきます。そこで3.1chである程度まで仕込んでから5.1ch、7.1chのデザインルームに移っていただいて、1〜2週間かけて仕上げていただく。そして最終的な調整を、このMAルームやダビングステージで行うという流れです。ですから、仕込み部屋とMAルームとの移動において、混乱を起こしたくないので同じスピーカーで統一したいという思いが第一にありました。
微妙なニュアンスのアンビエントやEQの加減もしっかりと表現してくれる、非常に作業しやすいモニターで満足しています。
― MAルームでは、クラシック・スタジオ・モニター・シリーズである8050(メイン/サラウンド用×9本)と8040(ハイトサラウンド用×4本)、そしてサブウーファーの7370を使用されていますね。その理由を教えていただけますか。
竹島 仕込み部屋で用いている8250と同じサイズで構成しようと計画したのですが、ハイトスピーカーは天井の耐荷重や圧迫感を抑えるという点から、ワンサイズ小さい8040を採用しました。
Genelecのスピーカーは解像度の高さに加えて、各チャンネルのセパレーションの良さが魅力ですね。映画館や大きなダビングステージでは各スピーカー間が広くなるため、セパレーションの問題はそれほど大きなものとはなりませんが、仕込み部屋やMAルームの広さの中で考えると、セパレーションの良いものが必要となります。特にMAルームはDolby Atmos対応の部屋としては狭めなので、理想を言えばもう少し広いスペースが欲しいところです。そのため各スピーカーとの距離は近くなるうえ、数も多いので、どのスピーカーがどういった音を出しているのかをきちんと判断できることがとても大事です。
Genelecのスピーカーはそうした点がキチンとクリアできていますし、各スピーカー間のパンニング、定位を動かしていくときの繋がりも良い。微妙なニュアンスのアンビエントやEQの加減もしっかりと表現してくれる、非常に作業しやすいモニターで満足しています。
- 以前よりある複数の仕込み部屋では、SAMシリーズとGLMのシステムも採用されていますよね。
竹島 はい、仕込み部屋においてはGLMを活用できるSAMシリーズだけで構築しています。これは仕込み部屋の運用に関連しますが、利用するお客様が各部屋間を移動することがあるため、移動した先で音の調整が違っているとお客様が悩んでしまうのです。その点、GLMがあればお客様ご自身が各部屋のスピーカーを自動で調整でき、ほぼほぼ近似値で作業を移行できるので、大きなメリットとなります。
早川 仕込み部屋では誰が調整してもいいように、そして同じような結果が出るようにしたいという点でGLMは最適でした。毎回お客様が変わるたびにアライメント確認もしていますが、マニュアルで10部屋近くを頻繁に調整するのは大変な労力ですから、非常に簡単にスピーカーを調整できるGLMはとても助かってますね。
- 従来からの5.1chや7.1chのサラウンドに対して、イマーシブ・サラウンドが優れている点についても教えてください。
竹島 イマーシブ・サラウンドになると、縦方向、上下に対して表現の幅がものすごく広がるというのが大きいですね。例えば上空を飛行機が飛んでいる、鳥が跳ぶなどの表現は今まではどうしても平面でしか表現できませんでした。それが実際に天井にスピーカーがあることで、レベル差だけでなく距離感を出せるのです。高さ方向の空間性が、ものすごくリアルに表現できるのが優位点ですね。
そしてアンビエンスについては、空間の広がり具合そのものは平面でも表現できていましたが、イマーシブ・サラウンドによって立体的に展開できるようになったことで空間の大きさも表現しやすくなりました。
- MAルームを活用した今後の展望をお聞かせください。
早川 基本的には、隣の撮影ステージで製作している作品のポスプロをしっかりと取り込んでいくことですね。そういった意味ではミュージックビデオの撮影も隣のステージを使っていただいていますので、音楽方向の方にもアピールしていきたいです。そして5.1ch、7.1chで製作された劇場版をDVD/BDパッケージにする二次利用の際、付加価値を付けるためにイマーシブ・サラウンド化するという点でもこのMAルームは有効だと考えています。Dolby Atmos対応のダビングステージは国内にいくつかありますが、そうした大きな部屋は予算もかかりますから、その前の仕込み段階で我々のMAルームを使っていただくという提案もしていきたいですね。
竹島 技術的なところでは2ch、5.1chの作品はもちろんのこと、イマーシブ・サラウンドの作品をもっと多く取り組んでいきたいですね。5.1chにしてもDolby Atmosにしても体験していただかないと監督さんやプロデューサーさんにその良さが理解してもらえないと考えています。「Dolby Atmosってこういうことができるんだ」「イマーシブ・サラウンドでこういう風に作品が良くなるんだったら、映画でもやってみようよ」という話になれば、今以上に邦画のDolby Atmos作品も増えてくると思います。そういった作品が増えれば、弊社のダビングステージでも「Dolby Atmos対応しましょう」という話にもなるかもしれません。なるべくそういう形で、最新フォーマットを技術の人間だけでなく、演出部の方にも触れてもらって良さを知ってもらうというのもひとつの目標ですね。
インタビュアー | 岩井 喬
フォトグラファー | 君嶋寛慶
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