Genelecでコンテンツはもっと「楽しく」なる
「ホーム用」の定義は非常に広い。PC用スピーカーとしてデスクトップで使用することもあれば、リビングの中心を担うテレビ用のスピーカーとして使用することもある。さらには、オーディオ専用ルームに機材を並べ、じっくり……といった聴き方もホーム・オーディオだ。Genelecのホーム・オーディオ製品は、スピーカーのGシリーズだけみても全部で5種類のサイズを用意しているので、どのような環境での聴き方にも対応できることは大きな特徴といえるだろう。
また、もう一つの大きな特徴として、全てにアンプを内蔵したアクティブ・スピーカーの形式を徹底していることも見逃せない。しかも、Gシリーズに関しては入力はアナログ入力のみの装備で、昨今によく見られるBluetoothやUSB入力といった端子を備えていないのである。そのため、接続はシンプルに行える場合と逆に工夫が必要になるケースが生じてくるが、変化の早いデジタル環境に左右されることなく長く使えるという大きなメリットにも繋がっている。いずれにしても世界中のプロの現場で支持されるサウンドを家庭に導入できるということは、大きな魅力であり、音楽や映画、ゲームを愛するものとしては一種の夢を叶えてくれる製品ともいえるだろう。
今回、そんなGenelecのホーム向けアクティブ・スピーカーのGシリーズとサブウーファーのFシリーズを体験する機会を得たので、何度かに分けてその魅力をご紹介して行きたい。今回は最もコンパクトな製品となるG OneとF Oneがテーマだ。
コンパクトに作り込まれたシリーズ最小モデル「G One」
まず、アクティブ・スピーカーの最小モデルG Oneのサイズは、H195×W121×D115mm、重量は1.7kg。文字通り非常にコンパクトなスピーカーで、設置・持ち運びともにまったく苦にならない。アルミ製の筐体にヤワな感触は皆無で、またこのサイズでもツイーターとウーファーにそれぞれアンプを搭載しており、小さいとはいえアクティブ・スピーカーとしての作り込みに抜かりはない。
昨今のブックシェルフ・スピーカーにありがちな「横幅は小さいが奥行きがやたらと大きい」こともなく、設置面積は極小で済むことも特徴だ。スピーカー・スタンドを使わずとも、テレビ・ラックの両脇やデスクに余裕で置けるだろう。電源ケーブルの接続端子はいわゆるメガネ型、入力はRCAが一系統。端子は全て下向きに装備されるので、セッティングの際はある程度柔らかいケーブルを用意しておいた方が良い。
脚部はGenelec製スピーカーの特徴でもある、ゴム系素材により振動を遮断する「Iso-Pod」という一体型スタンドになっている。これが実によく考えられた構造で、接地面からの振動による悪影響を抑えてくれるほか、スタンドをスライドさせることによりスピーカーを±15度の範囲で上向き・下向きに傾けることができ、設置のしやすさに大きく寄与する。
テレビの音声をすべてG Oneで再生するためには
それでは、G Oneを単体でテレビと接続して聴いてみよう。
G Oneの入力はRCA一系統なので、接続はほぼ必然的にテレビのヘッドホン出力を使うことになる(テレビによっては、この端子がライン出力を兼ねる場合もある。関連リンク:テレビのサウンドをGシリーズでグレードアップ - アナログ接続の仕方とTIPS)。接続には多くの場合、ステレオミニ→RCA(オス)分岐の音声ケーブルを用いることになると思われるが、写真のようなステレオミニ→RCA(メス)分岐アダプターを用意しておいて、お手持ちのRCAケーブルを活用するのもお薦めだ。なお、テレビの場合は、視聴位置に対してラックが低くなる場合が多いと思が、全述のIso-Podの角度調整を使って上向きにすることでベストな角度が得られることも魅力だ。
なお、この接続ではテレビに入力されたあらゆる音声がG Oneに出力されることになる。つまり、テレビ本体で見るNetflixやAmazon Prime Video、Huluなどの映像配信サービスから、映像系ディスクプレーヤー、テレビとHDMI接続されたゲーム機の音に至るまで、G Oneを通して楽しむことができるようになる。最も簡単かつシンプルなシステム構成なので、初心者の方にも簡単に実践できる接続と言えるだろう。
「音こそが映像にリアリティを与える」ということを実感できる
まずは、後述するG One背面のディップスイッチによるトーンコントロールは何も行わない状態(すべてOFFのポジション)で、UHD BD『モンスターハンター』から、主人公が指揮する部隊が異世界に飛ばされて、ディアブロス亜種と初めて遭遇するシーンを見てみる。
テレビ本体のスピーカーではほとんど感じられなかった、ディアブロス亜種が出現する前兆の地響きがしっかりと感じられる時点で、臨場感は雲泥の差である。地中から砂塵をまき散らして向かってくる巨体の轟き、それに向かって浴びせられる銃火の鋭さ、緊迫感に満ちたダイアローグなど、あらゆる音がリアルに描かれ、「音こそが映像にリアリティを与える」ということを実感できる。そもそもテレビ本体のスピーカーでは迫力を感じられるレベルまで音量を上げると不快な歪みが耳につくようなありさまであり、当然だがスピーカーとしてのレベルの違いは歴然としている。
PS5で各種ゲーム・タイトルをプレイしたところでは、細かい効果音を明瞭に描く分解能の高さと、「音が三次元空間のどこにあるのか」という定位の正確さ(もちろん、2chステレオの範疇ではあるが)、くっきりとした音の移動感が印象に残った。ゲームと言えば、数々の名作を生んでいるカプコンのサウンド・チームのスタジオでは、Genelecのスピーカーが使われている。このことが示すように、「ゲームの音」とGenelecのスピーカーの相性はばっちりだ。
続いては、音楽再生に特化したデスクトップでのセッティングで、G Oneのサウンドも聴いてみよう。いま、世間一般で最も聴かれる機会の多い音楽ソースは、ロスレスにも対応を果たしたApple MusicやAmazon Music HD、そして定番とも言えるSpotifyといった定額制の音楽配信サービスだろう。音楽配信サービスを聴く場合は再生に使う機器によって必要なものが異なってくる。再生するという意味ではスマホやパソコンのヘッドフォン出力端子から前述のテレビとの接続同様にステレオミニ→RCA(オス)分岐ケーブルで接続すれば問題なく、それよりも更にクオリティを求める場合は、スマホやパソコンとG Oneの間にUSB DACと呼ばれる機器を接続するのがお薦めだ(下図参照)。
今回の筆者の場合は、iFi audioの小型USB DAC「nano iDSD」を組み合わせ、音楽再生にはソースとしてアイ・オー・データのミュージック・サーバー「Soundgenic」という製品を組み合わせて、ハイレゾ音源の再生によるテストを行った。
この接続では、背面のディップ・スイッチによるトーン・コントロールをすべてオフに加え、「Table Top」かつ「Bass -2db」にも設定し(デスク上に設置する場合の推奨設定。この推奨セッティングもマニュアルに記載されている)同じコンテンツを再生して比べてみた。ディップ・スイッチを設定すると、低域の絶対的な沈み込みはほとんど変わらないまま、中低域がすっきりとして空間描写が改善される。デスクの天板で生じていた反射の影響が低減した低減されたおかげか、音の広がりが増し、さらにいくぶん高い位置に音が展開するようになる。
G Oneはそのコンパクトなサイズもあってテレビラックやデスクトップに設置される機会が多いと思われるが、そうした設置環境が再生音に及ぼすマイナスの影響をスピーカー側で即座に補正できるというのは、かなり有効な機能といえる。Iso-Podによる角度調整といい、Genelecがいかに「設置環境にかかわらずスピーカーの実力を発揮させる」ことを重視しているかが分かる体験だ。
低域だけではなく優れた接続性を実現するF One
さて、続いてはこのG OneにサブウーファーのF Oneを追加してみよう。
F Oneは光デジタル入力やCOAXIAL入力と言ったデジタル入力端子、そしてRCAアナログ入力といった豊富な入力端子を備えており、サブウーファーでありながら、ハブとしての機能も持つユニークなサブウーファーだ。
G OneとF Oneを組み合わせて使う場合の基本的な接続は、いったんF Oneにソース機器を接続し、そこからG Oneに接続するという形だ。この時、内蔵ベースマネジメントによりF OneのRCA出力からは85Hz以上の帯域が出力される仕組みとなっており、メインとなるスピーカーとの適切な繋がりが意図されている。F OneはLFE入力も備えるので、もちろん単体で「サラウンドのX.1chのためのサブウーファー」として使うことも可能だが、それ以上に「Genelecのスピーカーとの組み合わせによる、低域拡張に最適化されたサブウーファー」としての機能性を持っているといえるだろう。※F Oneのセッティングの際に行う位相調整についても、便利な動画を用意。関連リンク(YouTube):Genelec Fシリーズ・サブウーファーの位相設定|ステップ-バイ-ステップ・チュートリアル
今回は映像再生用としてテレビから光デジタルでF Oneへ接続。音楽再生用としてUSB DACからRCAで接続し、そこから左右のG Oneへ接続することもできる。G Oneは一系統のアナログ入力端子のみを装備し、さらにボリュームもない。映像も音楽も全部G Oneで聴くためには接続や機器で工夫する必要があると前述したが、この課題は、F Oneを使うことで一気に解決する。
また、Genelecのホーム用サブウーファーはリモコンが付属することに加え、テレビのリモコンの音量調整や入力切り替えを記憶させる学習機能もある。これによりリモコンの乱立を防ぐことができるため、予想以上に快適な使い勝手へとつながる隠れた便利機能だ。
F Oneを加えると「楽しさ」がさらに増す
端的に言って、F Oneを加えた2.1ch再生は、G Oneだけの2ch再生とは「完全に別物」と呼べるほど激変する。
『モンスターハンター』では、ディアブロス亜種が出現する前兆の地響きが部屋いっぱいに広がり、咆哮や銃火の威力も著しく上昇する。低音の量感が増えるのはもちろんだが、鈍い低音が垂れ流されるだけでなく制動もきちんと効いており、車で逃げる主人公たちを追うディアブロス亜種の重い足音や振り下ろされた尾の一撃に顕れている。サブウーファーの導入は単に「低音が出る」「迫力が増す」だけではなく、G Oneの低音再生の負荷が減少するおかげで全帯域の明瞭度が増し、細かい効果音の描写も改善される。
こうした「低音以外への波及効果」は音楽を聴いた際の印象もがらりと変える。ベースやバスドラムといった低域楽器の輪郭が太く強靭になり、空間の前後左右の広がり、立体感も大きく増す。再生音全般で大きな向上があり、スピーカーそのもののグレードが上がったように感じられる。ちなみに、低域が豊かになることで帯域バランスがピラミッド型に近づき、結果的にG Oneの生真面目さがちょっと薄れて、耳当たりが良くなる方向になる。
F Oneはサブウーファーとしては小型ではあるが、明らかに一般的な使用の範疇を越えるレベルの音量でも余裕があり、少なくとも6畳~10畳程度の空間でパワー不足になることはまずないと思われる。
サラウンド音声に含まれるLFE再生用途とは別に、サブウーファーを使うことで音楽再生においても音質が大きく改善されることはかねてから言われてきた。しかし、AVアンプ込みでサラウンドのLFE再生用途に使うならさておき、メインスピーカーとサブウーファーを理想的な形で組み合わせるために効果があると分かってはいても、おいそれと手を出せるようなものではない。
その点、F Oneは先述したように、仕様の時点で「Genelec製スピーカーとの組み合わせによる低域拡張に最適化されたサブウーファー」なので、組み合わせで苦労する部分はほとんどないうえに、音質への寄与は甚だ大きい。入力の増加やテレビとの連携といった機能の拡張も踏まえると、テレビを繋ぐことを考えるなら「G OneはF Oneとの組み合わせで完成する」と言ってもいいのではあるまいか。
なお、先般このサブウーファーをバンドルしたパッケージとなる「2.1ch Home Set」がリリースされ、導入への予算的なハードルも低くなった。「テレビの音を良くしたい」「テレビにしか繋がない」という場合であっても、G Oneを導入するなら、ぜひあわせてF Oneの導入も検討して欲しい。G Oneだけでも立派に役目を果たせるが、F Oneを加えると音が違う、発展性が違う、そして楽しさが違うからだ。
逆木 一
プロフィール オーディオ・ビジュアル・ライターとして専門媒体にて執筆を開始。特にネットワーク・オーディオの分野では、サウンドに加えライブラリ管理の重要性を説くなど、その先見性あふれる独自の目線の記事で多くの信頼を獲得。また、自身も熱烈なホームシアター・ファンとして、日々クオリティを追求し続けている。現在は、大好きなオーディオの魅力をもっと伝えたいという想いの元、Audio Renaissanceを主宰。記事や動画の制作に加えオンライン・イベント「Audio Renaissance Online」も積極的に展開するなど、その活動の幅を広げている。
Audio Renaissance : audio-renaissance.com
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