池上通信機 - Smart IPで構築された次世代のセミナールーム
世の中の放送のあり方が大きな変化を見せている昨今。池上通信機は従来の地上波のみならずIP伝送を駆使したインターネット放送にも積極的な取り組みを見せています。今回、新たに新設されたセミナルームは、実に同社らしいこだわりが盛り込まれたものとなりました。
蔵澄「実は池上通信機には、もともと何か会社の行事を行うような大きな部屋があまりなかったんですね。いままでは近くの公共施設を借りて各種社内研修や入社式等の社内行事を行っていたのですが、今年はこのような社会情勢もありそこが使えなくなってしまって、急遽慌ててオンラインで実施することになったんです。その時に“社内行事にも使える大きな部屋があった方がいいよね”という話がでまして、ちょうどリノベーションのタイミングと重なったのでこのセミナールームを新設した、というのが経緯となります」
こうして、セミナールームの新設へと踏み切った池上通信機は、当初は社内にて設計を開始。その過程で同社の放送業務で関わりがあり、最新機器に深い造詣を持つTXA Planningの平井哲史氏にシステムを相談したことが一つの転機となったそうです。平井氏は「セミナーにきちんと集中できること」をテーマに掲げ、システムを提案したと振り返ります。
平井「このセミナールームは、社内に対してのセミナーの他、社外に対する発信という目的もあります。社内技術研修もあれば、社外の講師を呼んで勉強会を行うということもあると思うんです。それであれば音響をキチッとしたいな、と思ったんです。これは、私の学生時代の経験なのですが、当時は大きな講堂でセミナーを受けることが多かったんです。その講堂ではどこに座っても講師の声が正しく聴こえませんでした。声が頭の上とか横とか後ろとかから聴こえるんです。せっかくセミナーを受けるのだから目線は講師やサンプル、黒板をしっかり見て、と思うんですが、音が全然違うところから出てくるので全く内容に集中できなかったんです。結局そのセミナーの単位が取れなかったんですよ。だから僕は、その学校の講堂の音響設備のせいにした(笑)。こうした体験が根底にあって私自身は、この業界で音響の仕事をさせていただく以上、演劇や歌舞伎、ミュージカルのセリフ等、きちんと内容に集中できる音響設計を行うことをポリシーとしています。もちろん、このセミナールームも同じポリシーです」
このセミナールームの大きな特徴といえるのが、セミナーの参加者の目線で設計が進められているということ。施工を行ったのは、数々の事例で定評のあるヤマハサウンドシステム株式会社。横長の部屋を全部で6つにゾーニングし、別のゾーンからの音が回り込むことなく、ごくごく自然に登壇者の方向からきれいに音が聴こえてくるように設計されています。平井氏が意図したこの音響設計の実現には、GenelecのSmart IPスピーカーが最適だったと話します。
平井「この部屋には物理的に柱があるので、前方のゾーンのL/C/R、後方のゾーンのL/C/Rで合計6台をそれぞれのゾーンに音が行き渡るように設計致しました。スピーカーは、それぞれのゾーンの中心へ向けて放射状に角度をつけています。それと、ディスプレイからの音も画面に集中するためには成立しますので、きちんとディスプレイから聴こえるように処理していて、スピーチされる方の近くに音源として配置しています。センターの4430は、ディスプレイの手前くらいから聴こえるようにして、それを仮想音源としてそれぞれのタイムアライメントを計算してみたんですね。計算上、図面上に三次元で位置を割り出して予めタイムアライメントを決めたのですが、素晴らしいなと思ったのは出音が非常に良いのか、それを補正する必要がなかったんです。つまり、補正なしでも計算通り。その通りに施工して、思った通りに音が鳴ってくれたので苦労はありませんでした」
Genelecのスピーカーはもともとスピーカーの特性が良いので、あとから補正するようなこともほとんどありませんでした
平井氏が今回のセミナールームのスピーカーとしてSmart IPを提案した理由には、サウンドの面でも高く評価していたことが関係します。
平井「以前、Smart IPを聴かせていただいた際の第一印象が、すごく明瞭度が高くて音がしっかり前に張り出してくるということだったんです。実際に測定してチェックしてみても特性はリニアで、音の抜けが非常に良くて、明瞭度が高くパワーもあると認識しました。このセミナールームのような場所との相性が非常に良いスピーカーだと思っていました。セミナールームでは生の音も聴こえてくるんですが、重要なことはスピーカーの音と違和感なく混じり合うということ。ですから、音響設計の時はスピーカーがきちんとした指向性を持っていてくれると設計がしやすいんです。Genelecのスピーカーはもともとスピーカーのリニア特性が良いので、あとから補正するようなこともほとんどありませんでした」
そしてまた、Smart IPがLANケーブル1本で電源も音声信号も扱えるということも大きなポイントとなったそうです。
平井「パワードスピーカーを複数設置する場合、通常だったら電源ケーブルや音声ケーブルを引き回すということになるのですが、これが以外と大変な作業になるんです。その点、Smart IPならLANケーブルだけで済んでしまう。これは大きなメリットでしたね。また、通常はオーディオ・ケーブルに何を使うのか、と選ばないといけないのですが、Smart IPであればカテゴリ5またはカテゴリ6のケーブルを使用すればいいということもメリットだと思います」
POEによる電源供給を行う場合、POEに対応したイーサネットスイッチ(ハブ)の選択も重要なポイントとなります。池上通信機のセミナールームで採用されたのは、世界の音響業界にて高い信頼性のもと使われているLuminexのもの。「電源供給はシステムの心臓のようなところですので、Smart IPの性能をフルに発揮させるクリーンな電源と力強いパワーがあるものを選びました」と平井氏はLuminexのイーサーネットスイッチを採用した理由を述べています。オーディオをコントロールするのはYAMAHAの16in/16outのミキサーTF-RACK。AES67をDanteにコンバートするというインターフェース的な使い方とミキシング機能を備えるTF-RACKと内部にパワーアンプを備えるSmart IPのシステムによって、非常にシンプルなシステムの構築を可能とします。
そしてもう一つ、Smart IPが導入された背景には、実に池上通信機らしい理由もあります。それは現在の放送機器の主力製品にとって、IP伝送技術は無視することができない存在となっているということが深く関係しているようです。
平井「池上通信機という会社は、世界中の放送業界でトップクラスのメーカーです。カメラの歴史とともに歩んでいるところがあって、8Kカメラ、4Kカメラ、それといままさに世界中で統一しようとしているSMPTのST 2110に準拠している製品も開発なさっている。また、映像と音とリモートコントロール含めたMoIP(Media over IP)についても開発をしているということで、やはりいま現在、池上通信機さんの持っているノウハウをこれからに生かすのであれば、スピーカーもふさわしいものを使いたかったということも、Smart IPを導入した理由になります」
このセミナールームで使用されるカメラは、最新鋭の4Kカメラです。ここで撮影したビデオデータは一度社内の編集室へ音と共に伝送。そこからST 2110規格のIP回線に載せてネット回線を介して日本各地に全5箇所の営業拠点と3箇所の事業所、アメリカ、ドイツ、シンガポールといった海外拠点へ送られています。
現在では社会情勢の影響もあり、ウェビナーやZoom等を活用したミーティングが世界各地で行われていますが、この流れは今後も発展していくだろうと見られています。「“光ファイバーを引いておけばなんとかなるんじゃないか”といういままでのインフラから、“光ファイバーがあるのでこういうことができます“という提案ができるようになっている」と平井氏も話すとおり、Smart IPはサウンドだけではなく、システムとしても次世代に適合した構築を可能とするポテンシャルを秘めています。
この「次世代のセミナールーム」は、池上通信機としても大きな信頼感と確かなクオリティを実現できたと、高い満足度をもって迎え入れられました。
大久保「平井さんとは、私が担当するお客様向けのホール向け映像音響システム等の提案案件で、何度もお付合いさせていただいており、今回の当社セミナールームの音響設計においても安心してお任せすることできました。スピーチもしやすく期待以上の仕上がりに、今後このセミナールームで放送系の内覧会等を開くことを楽しみにしております」
蔵澄「この部屋が完成して音を聴いた時、本当に聴きやすくて耳に優しい音だな、と思いました。 この前ちょうど説明会があったんですけど、この部屋のどこへ行っても音が同じように聴こえてきたんです。また、経営について結構込み入った話が出てきても、集中して内容を理解することができました。それと、長時間聴いていても疲れが少なかったんです。このセミナールームはまだオープンしたばかりなのですが、今後は社内行事はもちろん、各種内覧会の開催や私たちの取り組みを発信するなど多目的に活用して行きたいと考えています」
キット・リスト
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