At Home | Goh Hotoda - 新たな音楽表現を切り開くイマーシブ
東京から離れた海を臨む高台にある、Goh Hotoda氏のプライベート・スタジオstudio GO and NOKKO。Hotoda氏が手がけた数々の作品のゴールド・ディスクが並ぶ階段を降り、スタジオへと脚を踏み入れると、8320を中心に組まれたDolby Atmos対応の9.1.4chのイマーシブ・スタジオが目の前に広がります。
そもそも、これまで数々の名作と呼ばれる作品を手掛けてきたHotoda氏が、新しいフォーマットとなるDolby Atmos環境を構築しようと考えたきっかけとは何だったのでしょうか。それは2020年春頃に全世界を巻き込んだパンデミックの影響もあって、Hotoda氏自身が落ち着いて将来のシステムを考える時間ができたことにあるようです。
「今後自分の音楽制作を考える中で、イマーシブというものがどういうものかを調べる時間ができたんです。以前から興味はあったんですが、実際に導入してみようと思ったのは、ここ数年の社会情勢のなかで皆様のエンタテインメントを楽しみ方が大きく変わって来た感じたことでした。ですので、環境としてイマーシブを自分のスタジオに揃えてみようと思ったのですが、やはり”新しいもの”なので、時間をかけてテストを繰り返して自分のスキルを磨いていくということも重要でした。そこで、時間をかけながらプランを練って、思い切って自宅への導入を決めたというわけです」
Hotoda氏がイマーシブに興味を持ち始めた2019年頃は、まだまだ大規模なMAスタジオでしかDolby Atmosの環境は整っていない状況だったと当時の状況を振り返ります。それでもなお、プライベート・スタジオでのイマーシブ環境の構築に踏み切った理由は、Hotoda氏が強く感じたDolby Atmosならではの可能性にあったそうです。
すでに生活の中には、Dolby Atmosの広がりのある音楽が溶け込んでいる
「Dolby Atmosとかそういう新しい技術が出た時って、必ず“再生するためのスピーカーが浸透していないじゃないか”とかそういうやらない理由を言われることが多いんです。でも実際はそうじゃない。いまは、Apple Musicの空間オーディオにしてもAmazon Music HDの3Dオーディオにしても、サウンドバーやもっと言えばMacBookやスマートフォンみたいな機器でもエンコードして広がりのあるサウンドが聴けるんです。つまり、いままでみたいに“マルチチャンネルの環境がないと聴けない”ということではなくて、すでに生活の中に溶け込んでいるということなんですね。これが他にはないDolby Atmosの最大の魅力だと思っています」
そして、Hotoda氏がもう一点強調するのが、それらのコンテンツを作るためのスピーカーの重要性です。「どんなにリスナーがコンテンツを聴ける環境が整ったとしても、イマーシブのコンテンツを作るためには、きちんとしたスピーカーが必要になります」とHotoda氏は話します。
「リスナーが楽しむ環境と、制作側で必要となる環境では、やはり別のものとなります。例えば、MacBook等でデコードされた信号では、決して後ろからの音がフルレンジで聴こえてくるわけではないので、そのミックスのためにはスピーカーが必要になるんです」
こうしてHotoda氏は長い時間をかけてプランを練りながら、最終的にGenelecのスタジオ・モニター8320と、サブウーファーの7360を選択しました。そもそも、イマーシブの9.1.4chとなるとその数も多く、セッティングひとつにしても極めて大がかりなものになりがちです。しかし、およそ95%ものリサイクル・アルミニウムを採用し、大きな内部容積を確保できたことでサイズを超えた低音を再現できるなど様々なメリットを実現したGenelecの場合は、多様な再生フォーマットやスピーカーレイアウトに柔軟に対応できます。
Genelecでは、スピーカーの取り付けのために豊富なアクセサリー・マウントを用意していることも大きな特徴ですが、Hotoda氏の場合は最終的に自身で特注したトラスのようなものをスタジオのコンクリートの壁から張り巡らし、スピーカーそのものはワイヤーで吊るというHotoda氏のアイデアに基づいたオリジナリティ溢れるセッティングを実施しました。これにより、ケーブルを視界から隠した上でスピーカー・スタンド等をいたずらに設置することなく、極めて整然としたイマーシブ・スタジオ環境を実現しています。
そして、なによりもGenelecが誇るスピーカー・マネジメント・ソフトウェアGLM(Genelec Loudspealer Manager)は、Hotoda氏のイマーシブ環境の構築にあたって、極めて重要な役割を果たしたそうです。
GLMは補正だけではなく、自分の部屋の悪いところも理解させてくれる
「導入にあたっては、まず最初にミッド・レイヤーの9個のスピーカーを選ぶわけですけど、そもそもこれだけの数の音が一気に出てくるとどういう音になるか、想像もつかないわけですよね。だからこそ、GenelecのGLMという音場を自動的に調整してくれるソフトウェアが必要だったんです。前から出てくる音に関しては判断できますが、後ろからの音もリファレンスとしてきちんとした音が出ているかどうかを判断するとなると、流石に難しい。前後左右からの音を自動的にチューニングできるGLMは大きな役割を果たしました。実際に使ってみると、ただスピーカーを部屋に最適化してくれるだけではなくて、自分の部屋の問題点も上手にキャリブレーションしてくれるんですよね。自分の部屋、つまりこの問題点というのも逆によく分かったことも思わぬメリットでした」
こうして作り込んだstudio GO and NOKKOでHotoda氏は、実に早い段階からDolby Atmosを採用した作品を積極的にミックス。実際にミックスワークをこなしてきたからこそ、環境の面においてもこれまでのステレオ・ミックスとの大きな違いを感じていると話します。
「この部屋は音楽のミックスをするために作ったのですが、その場合は前のスピーカーの負担がどうしても大きくなるんです。というのは、やはり音楽のコンテンツというのはステージ側、つまりフロント側を中心にミックスをするわけですから、例えこんなにたくさんスピーカーがあっても、どうしても前の2chに負担がかかるんです。そこで僕が考えたのが、“もう2台、フロントにスピーカーを足す”という考え方だったんです。いままでのL/Rの間にそれぞれ2台スピーカーを足すことによって、4台のスピーカーで音が作れるようになるわけです。これは“フロント”という理念であって、2chとかそういう概念ではないと思っています。つまり、前からしっかりと音楽が聴こえるという、いままで以上に余裕を持ったミックスを作ることができるようになるんです。GLMは、このようにスピーカーを新しい概念のものとで2つ足した時にも、ちゃんと反応してくれてキャリブレーションしてくれます。つまり、結果としてフロントのスピーカーが広くなってくれるわけです。だからこそ、さらにミックスがしやすくなる。これがGenelecを選んで良かった思う最大のポイントですね」
音楽作品を中心にイマーシブ・ミックスを積極的に展開しているHotoda氏ですが、これからのDolby Atmosを活用したミックスについて、次のようなユニークな考え方も述べてくれました。
「僕自身、Dolby Atmosに興味を持ったもうひとつのきっかけとして、どちらかというと空から音が聴こえてくるような、非現実的な世界を聴いている人たちにアブストラクトに届けるのも面白いと思っているんです。例えリスナーがスピーカーを持っていなくても自分たちが作ったものを届けられるということも、Dolby Atmosの良いところじゃないか、と思っています。これからはミュージシャンとかプログラマーが自由に制作できる環境の中で、ソフトシンセ等を駆使しながら新しい作品を世の中へ発信して、これからの音楽産業に貢献するんじゃないかな、って僕は思うんです」
Goh Hotoda
プロフィール 1960年生まれ。東京都出身。アメリカ・シカゴでキャリアをスタートし、1987年にニューヨークへ。1990年マドンナの『VOGUE』のエンジニアリングを務め、今ではポピュラーとなったハウス・ミュージックの基盤を作る。その後ジャネット・ジャクソン、ホイットニー・ヒューストン、坂本龍一、宇多田ヒカルなどの一流アーティストの作品を手がけ、トータル6000万枚以上の作品を世に送り出す。2度のグラミー賞受賞作品など世界的にも高い評価を獲得。2001年、仕事を通じ10年来の付き合いのあった『REBECCA』のNOKKOと結婚。現在はDolby Atmos対応のミックスとハイレベルなマスタリング・スタジオを可能とした3世代目となるstudio GO and NOKKOを所有。
studio GO and NOKKO : hotoda.com/
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