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202315unpeopleunpeople--Genelec S360A7370AGenelecunpeople--ACOUSTIC FIELD

これまでに蓮沼氏はライブハウスやホールに限らず、アウトドアはもちろん、銀座の交差点など、さまざまな場所でライブを行なうことで音楽ライブの枠を越えて、オーディエンスに新たな刺激を提供してきています。そんな蓮沼氏が、次に新しいパフォーマンスを行う空間として選んだのは、東京青山にある草月プラザのイサムノグチ石庭でした。「あの石庭空間に自分の作品をインストールしたら、どういう変化が起こるのかを体験してみたかった」と語る蓮沼氏。会場の環境に合わせて、この公演では立体音響を用いたパフォーマンスを思案します。

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「蓮沼さんからこの話をもらったときに、まず久保さんと一緒にやりたいと思いました。久保さんが提唱する8chキューブのシステムによる360°の音像感に加えて、もうひとつアイディアを加えました。ステレオ仕様の作品の良さを生かしながら8chの広がりを加えるという、2ch+8chのミックスを作りました。いろんな会場でライブをやるときに、ミックスを変えずにシステムとバランスの調整で対応できるものを目指しました」(葛西)

「その場の空間を生かしながら音楽をどう展開するか。場所によって変化できるようなパフォーマンスにしたいと思っていたので、そこを葛西さんがうまくまとめてくれました」(蓮沼)

2024年3月20日に開催された「unpeople-初演-」。会場である草月プラザのイサムノグチ石庭は最下部が入り口で最上部に向かって上に登っていく作りになっていて、なかを流れる水のせせらぎ音も聴こえる空間。横に広がるライブハウスやホールとも、箱形のインスタレーション的な空間とも異なる特殊な場所です。今回の公演について「シアターピースでありインスタレーションでもあり、その中間領域のようなものを目指しました」と蓮沼氏は説明します。

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この公演はステージと客席という空間の分け方はなく、観客は自由に会場内を歩き回ることができます。その会場全体を包み込むように音楽が流れ、会場内のさまざまな位置に配置された楽器を、観客と同じように蓮沼さんが移動しながら演奏します。音量もライブのラウドさとは異なり、基本的に耳を傾けて聴く音量感。草月ホールの外を走る車の音や石庭のせせらぎが音と一緒に聴こえるのが印象的でした。環境音楽として捉えられる瞬間もあれば、ライブ・パフォーマンスと感じる瞬間もあり、演奏の雰囲気は流動的に変化します。主体的に聴いたり、離脱したり、その自由さがあるのもこの公演の面白さだと感じました。スピーカーのレイアウトも個性的で、メイン・スピーカーのGenelec S360Aと7370Aは会場の最上階にあり、先述した8chキューブのシステムは会場を囲む感じとは異なる配置でした。

「会場は変わった形状なので、2chづつを5層ある会場の各層左右に配置し、蓮沼さんが演奏するポジションの付近の音量を大きくしたりしてバランスをとりました。スピーカーの向きは久保さんにおまかせでした」(葛西)

「基本的にミックスは2ch+8chキューブのチャンネル・ベースでできているので、8chの上下をペアで置けば、横の音のつながりは保たれます。響きのある会場なので8chの下層のスピーカーは普通に前を向けましたが、上層は上を向けて音を放射しました。それによるちょっとした印象の違いが、意外と面白い効果をもたらします。それと会場の水の音が印象的だったので、リハーサルで水の音を録音し、水の音が出ている付近にスピーカーを設置して水の音の大きさを調整したりもしていました」(久保)


S360A

そしてメイン・スピーカーGenelec S360Aとサブウーファーの7370A
導入のきっかけは同じモデルを導入しているRittor Baseで本公演の前に行ったパフォーマンスでした。
そのとき葛西氏は「ライブ・バージョンとして“良いものが作れた”と感じ、それがリファレンスになった」と手応えを感じたと言います。その後、久保氏がメイン・スピーカーにS360Aとサブウーファーの7370Aを二人に提案しました。

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「S360Aはモニタースピーカーでありながら小規模なシアター感のある音が出せるのがいいんです。僕はスタジオではなく、いろんな場所で音を出す機会があって、そういうシチュエーションで使えるスピーカーは意外と少ない。Genelecは基本的に音が飛んでくれるというか、有効な音響エリアが広いですね。今回のようにアートスペースや美術館などいろんな場所でパフォーマンスを行うときは、システムごと持っていくので、スピーカーの設置場所を決めるのが難しかったりします。そういうときもS360Aは素直なスピーカーなのでリファレンスがわかりやすい。それにサブウーファーもとても使いやすくて低域で悩まなくてよいので調整の手間も省け、とても気に入っています」(久保)

「unpeople-初演-」のサウンドで印象的だったのは音量の絶妙なバランス感でした。メイン・スピーカーにS360Aと7370Aがあることで雰囲気を体感するインスタレーションだけで終わらない、音楽イベントとしての濃度を感じられました。S360Aと同じ階層で聴けば迫力のある音を体感でき、下の階層でも上層から鳴る音がしっかりと聴き取れて、かつ違和感のないサウンドを体験できました。実際に公演でGenelecのスピーカーを使用した感想を葛西さんと蓮沼さんに聴きました。

「下見で会場の水のせせらぎの音が気に入ったので、それが聴こえる音量感にしたいと思っていました。なので、PAスピーカーは入れたくない、でもそうはいってもスタジオ用スピーカーだと音が飛ばなさすぎて......。S360Aはその中間というか、僕の感覚だと10メートル近くはスイートスポットが続く印象があります。その特性がこの場所にマッチしましたね。音質はとても素直なのにラウドにも鳴るという相反するキャラクターもあって、公演中はEQなどの補正や調整をまったくしませんでした。ただ音を出すだけで満足できることってあまりないので、凄くポテンシャルの高いスピーカーだと思いました」(葛西)

「僕はできるだけナチュラルな音にしたいと思っていて、今回はリハーサルで音を出したタイミングでOKというか。もちろん葛西さんと久保さんが調整しているおかげもあって、パフォーマンスだけに集中することができました。でもそれって普通のことではなく、奇跡的なことだと思っています。なのでこのスピーカーがあって本当に良かったです。というのも、今回のパフォーマンスは回遊型なので、自分が演奏するというよりも、お客さんになったつもりで聴く意識が大事だなと思っていて。今回は演奏しながら本当に気持ちよく音を聴くことができました。そんな音を気持ちよく聴ける環境作りの中核になったのが、S360Aと7370Aだと思っています」(蓮沼)

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音楽ライブとインスタレーションの中間を目指した「unpeople-初演-」は、蓮沼氏の音楽家としての豊かなイマジネーションを体験できる素晴らしい公演であり、それと同時にGenelec S360Aと7370Aが、新しい形態に挑戦するミュージシャンやエンジニアを力強くサポートするスピーカーであることが分かる一例でした。今後、この回遊型の公演は海外での展開を考えているとのこと。同じシステムを用いた蓮沼氏の「unpeople+1people」のパフォーマンスは、全国各所での公演が予定されています。この記事に興味を持った方はぜひ足を運んでみてください。